2024年7月12日~19日にかけて主要米国株価指数であるS&P500が日本円建てで急落を見せています。
同指数に投資する超人気インデックスファンドeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)の直近1か月のチャートを見ると下記です。
2023年3月中旬頃から2024年7月11日まで順調に右肩上がりで上昇を続けていましたが、
7月12日に-2.78%、さらに7月18日に-3.07%と、7月11日を基準とすると7月18日はトータルで-4.40%になりました。
原因は指数自体の下落+ドル円の円高影響のダブルパンチです。
ここまでの急落は2024年1月から開始した新NISAから投資を始めた人にとっては恐らく初めての経験かと思われます。しかも今後さらに下落する可能性があります。
このように一週間足らずで-5%近くの急落が起こるなどはインデックス長期投資を行っていると日常茶飯事だということを改めて認識しなければなりません。
さて、今回はこの急落を契機にもし今後米国株式がある程度の期間を持った低迷期に入り、逆にその他の資産クラスが好調期に入ったと仮定して、
長期投資を続けていくことができるかというインデックス投資家の精神面に着目したいと思います。
一番リターンが高い資産は年ごとにバラバラ
上図にて各資産の年次パフォーマンスを示しました。
米国株式が8割近くを占める先進国株式がしばらく好調だったというイメージでしたが、年ごとに一番パフォーマンスが良かった資産クラスの順位という観点で見ると、
実は先進国株式が1位であった年は2014年~2023年の十年間で一度も連続していないのです。
2021年は先進国株式が+37.6%で絶好調だったかと思えばその上に先進国リートの+49.9%がありますし、2014年が国内リートが2位の1,2フィニッシュでした。
2014年~2018年を切り取ると先進国株式が1位である年はありません。1位が国内リートだったり、新興国株式だったり、国内株式だったりします。
2014年~2023年まで見ても先進国株式が1位であった年は10年間中2年のみ。
2022年に至っては誰も注目していなかった新興国債券が唯一プラスでした。
巷では米国株式が最強と言われていても実際は別な資産クラスが最強であった年の方が多いのです。
米国株だけだと米国株以外の上昇の恩恵は得られない
米国株式だけに投資していた場合はもちろん他の資産クラスの上昇の恩恵を享受できません。
※間接的に絡み合っているということはありますが、ここではあくまで資産クラス別で考えます。
前述の図のデータの都合上先進国株式での比較になってしまいますが、
2021年に先進国リートに仮に投資していた場合の10%以上高いリターンは得られませんでしたし、
2017年は新興国株式に仮に投資していた場合の15%近く高いリターンは得ることができませんでした。
2015年、2018年は先進国株式がマイナスリターンだったのに対してそれぞれ国内株式、国内リートが10%以上のプラスリターンをたたき出し、当然先進国株式だけに投資していればプラスどころかマイナスでした。
もちろん長い期間を平均してみれば先進国株式が1位だったという期間はあります。恐らく直近の期間になればなるほどそうなると思います。
言いたいことは、ただ単に「米国株式だけに投資していた場合はもちろんそれ以外の資産クラスの上昇の恩恵を享受できない」ということです。
この至極当然の事実が長期投資家の精神面に非常に強くかかわってきます。
別資産クラスの好調を指くわえて見ていられるか?
長期投資を続けることを惑わしリターンを下げてしまう割と強い要素として「自分の投資していない資産クラスの好調」があると考えています。
自分の投資している資産クラスよりも10%以上高いリターンをたたき出した資産クラスに投資していなかった機会損失に気持ちが支配されてしまうのです。
そして「今からでも遅くない、アセットアロケーションを組み替えてこの資産クラスを取り入れよう」と考えるのです。
しかしながらそう考えたときにはすでにその資産クラスは天井付近にあり、投資した途端に次の年はもともと投資していた資産クラスよりも低いリターンになる。
2021年と2022年の先進国リートが良い例
こういったことを繰り返していると元の資産クラスだけに投資していた場合よりもリターンを下げてしまうことは想像できると思います。
長期投資の基本である「長期で持ち続けよう」という意識を強く持っているインデックス投資家のあなたにとっては「こんな行動は愚の骨頂だ」と思うかもしれませんが、
いざその時になってみると誘惑が多くなるものです。
例えばこれからインド株が上昇すると言われ、実際に上昇しています(すでに新興国株式インデックスに占めるインドの割合は中国を削って2位)。
インドは人口増加が期待でき共に経済成長も大きく期待できる国であるという認識も広まっています。
この図はIMF(国際通貨基金)の予想する経済成長率です。
これを見ると過去である2023年は既に先進国は新興市場国と発展途上国に強く劣後しています。その後の2024年、2025年も同じ傾向です。
ただこれはあくまで経済成長率なのでそのまま株価へ反映される訳ではありませんし、タイムラグもあります。
しかしながら大きなトレンドとしては新興国の経済成長は先進国よりも非常に大きくなり、当然将来の株価上昇にも大きく差が出ることになります。
誤解してほしくないのは、私はこういった情報を得てどの資産クラスが上昇するかを予想しろと言いたいわけではありません。
こういうトレンドが大きく転換しうる世の中で、ある一つの資産クラスだけに投資していることは長期投資を続けるにあたって危険ではないか?ということです。
得てして「〇〇の資産クラスが凄い」と一般国民に広まるのは既に上昇しきった時が多いです。
でも逆に「上昇しきったのだろう」とタカをくくっているとその予想とは裏腹にドンドン上昇していくこともあります。
そして「これはやばい、この流れに乗らないと機会損失になる!まだ間に合う!!」と焦って資産配分を変えたところで急落するということもあります。
低迷してきた資産を売って(安く売って)、高くなった資産を買ってしまう。
・・・なんだか容易に想像ができるのではないでしょうか?
本当に自分がそうならないという自信が持てるでしょうか?少なくとも私は持てません。
でも本当にトレンド転換して買った資産クラスが次の覇権を握るのかもしれませんよ?
さて、どうするのが良いのでしょうか・・・
分散投資で誘惑に立ち向う
一つの解であり私が実践していることは分散投資です。
あらゆる資産クラスに投資しどの上昇も一定程度享受するという体制を構築しています。
先進国株(米国株)が上がっても、国内株が上がっても、新興国株が上がっても、リートが上がっても債券が上がっても、
すべての上昇を享受する。
何が上がっても恩恵を受けているという意識は長期投資を続けやすくします。
前述の他の資産が上がっていくことを指をくわえて見ているだけのようなことは起こりづらいからです。
その代わり突出した上昇を見せる資産クラスの保有割合は分散した分だけ減っているのでその資産クラスのリターンを最大限享受することはできません。
じゃあ同じように高いリターンを出している資産に誘惑されるんじゃないの?
確かにそうだけど、分散投資はリターンを一定程度犠牲にすると割り切っている分だけ誘惑には強いと思うよ。
単純にある一つの資産クラスに投資していることに比べて、分散投資は一部分は保有していることになるため誘惑には比較的強くなります。
また分散投資は「リスクを抑えるために一定のリターンを犠牲にする」と割り切って選択する投資手法です。
リスクを抑えるということは長期でトレンドが移り変わる世の中で、大きく下落する資産もあれば一方で大きく上昇する資産、値動きがあまりない資産、ちょっと値動きが異なる資産が存在します。
値動きが異なっても、そのすべてが長期的には右肩上がりである資産であれば右肩上がりであることはそのままにリスクを下げることが可能です。
ちなみに値動きがあまりない資産、例えば債券は平時のリターンは株式に劣りますが、暴落などの有事には逆に株式よりも高いリターンを出す可能性が大いにあります。(値動きが少ない、という性質だけではない)
リターンを犠牲にしてでも値動きをマイルドにし、有事の際に回復を早める効果を持たせる。これは長期投資を続けていくために強く寄与してくれる効果です。
その効果を得るためと割り切って分散投資を選択した前提があるためより確固とした信念を持つことになります。
そしてもう一つ強調したいことは、分散投資はいつ何が起きても良い様に対応できる手法だということです。
世の中のトレンドが移り変わることは分かっていてもどうなるかは予想できません。だからこそあらゆる資産に投資します。
それは見方を変えれば何十年と続けていく投資の中で、長期でどうなってもよいという体制とその意識を持つことができるということです。
対してある資産クラスだけに投資していた場合はどうでしょうか。
例えば「米国は世界経済の中心だ。米国が崩れれば世界が崩れるときだ」と米国一辺倒の投資家からよく聞くような考え方を持っていたとしても、
米国が崩れて一度世界が崩れた後にインドが覇権を握るかもしれないし、それは中国かもしれないし、別な国かもしれないし、もしかしたら日本かもしれない。
もっと言えば、米国崩れずして他国が台頭するかもしれない。
米国だけに投資していることを変えなければ、そういう懸念を長期に渡って未来永劫持ち続けながら投資を続けなければなりません。
片や将来がどうなっても良い様にしている投資、片やそれが崩れたら怖いと思い続ける投資。
投資を長く続けるといった観点だけで言うと前者の方が続けやすいのは明らかです。
ただし何も考えずただ分散投資していればよいかというとそれも危険です。
株価が好調な時はよく「バランスファンドが物足りないからS&P500に変えてしまった」と発信する人が多くなります。
株価が好調な時はバランスファンドの方がリターンが劣ることは当たり前です。それは投資する前から分かっていたことで、分かっていて投資したはずです。
そして株価が好調な時というのはこれも当然株価が高くなっている時と同義です。
そしてバランスファンドのリターンが劣るというのはバランスファンドが比較的安いときです。
「バランスファンドが物足りないからS&P500に変える」という行為は投資の大原則とは逆の、高く買って安く売る行為をしていることになります。
当然リターンを下げかねない行為に該当します。
誤解をしてほしくないのは、一度分散投資を始めたら資産配分を絶対に変えるなと言っているわけではありません。
ある瞬間だけを見て、こっちの方がリターンが高いから乗り換えようとすることは好ましくないといいたいのです。
資産配分を変える判断をしていいときは、長期で見て目標金額に到達するためのリターンが足りないと判断した時や、自分のリスク許容度が当初考えていたものよりも大きいと判断した時などです。
目標設定もなく目先の高いリターンだけを追い求めようとする行為は逆にリターンを下げかねないため注意が必要です。
最後に私のメイン投資先であるeMAXIS Slim バランス(8資産均等型)の過去1か月のチャートを貼りつけておきます。
7月12基準で7月18日の基準価額は-1.43%でした。S&P500は-4.40%です。
eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)はこの間上昇または値動きが小さかった先進国リートや国内リートを含んでいたり、国内株式や国内債券と為替影響がない資産も含んでいたため、下落率はS&P500の1/3以下に抑えることができました。
今回は以上です。