2022年の1ドル110円台から急激に円安方向に動き、2024年までで一時160円付近まで円が下落。
記事執筆時点で150円台前半~後半をうろちょろする相場が続いていますが、
この状況が続いているうちに資産運用における円高シフト懸念の声が大きくなっています。
なぜオルカン保有者は円高を恐れるのか?
近年でインデックス投資による資産運用の裾野が広まり、
特に米国の株価指数であるS&P500に連動する投資信託や、米国株への投資を主体とするeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)(通称オルカン)に投資する個人投資家が爆発的に増えました。
オルカンは60%以上が米国株式です。
これら商品は日本円建てで購入するため、円安シフトで円換算で資産を増やすことができた一方、今後円高となり2022年以前の水準まで戻っていくかもしれないということで、
逆に今より資産評価額を大きく減らしてしまうリスクを懸念しているのです。
例えば1ドル150円が100円と円高に振れた場合、ドル換算の評価額が同じ場合であってもS&P500なら為替影響だけで円換算で-33%以上の評価額の下落を受けることになります。
オルカンなら米国株の部分だけで-20%の下落となります。ただしその他のドル依存の高い国(新興国等)の部分も少なからず影響を受けることでしょう。
-33%、-20%というのは暴落と言ってもよい水準の下落ですから、リスク許容度の小さい投資家は投資を続けられなくなる可能性があります。
しかも株価影響を除く為替影響だけでこの下落率です。
円高・株安のダブルパンチを喰らうと日本だけ-50%や-60%などの大暴落となる可能性もあり得ます。
“あり得る”というのは可能性は0じゃない、というレベルではなく十分考えられるレベルだから怖い
米国依存が抗う方法は無い
インデックス投資の基本はバイ&ホールド。
つまり購入したものを持ち続けるという戦略ですから、持ち続ける資産が円建ての米国資産だけになると為替影響をそのまま受けることになります。
円高に振れる前に売却できればベストなのですが、それはインデックス投資の範疇を超えているのでここでは論外とします。
買って持つだけですから何もできません。
オルカンならオルカンを買って、その口数を持つだけです。
では積み立てを一旦控えておくのはどうかというと、逆にさらに円安、株価が上がっていく可能性もあるわけですから判断が難しいところです。
これもタイミングや相場を予想することができないインデックス投資家の範疇を超えています。
インデックス投資にて米国主体の投資を行っていると円高による円換算評価額の下落は今持っている資産に対して全て降りかかることになります。
取り得る手段は0です。ありません。
分散投資のリバランスで円高を迎え撃て!
分散投資による資産分散では米国株だけではなく他の国や資産へも投資を行います。
国別なら日本や新興国、資産別なら債券やREITなどにも投資を行います。
これはそもそも投資の入り口から米国依存を下げるという直接的な効果もありますが、
今回特に注目したいのはリバランスによるバリュー投資が機械的にできるというところです。
リバランスとは、
値動きが異なる資産に分散投資を行っている途中で崩れてしまった資産割合をもとに戻すことです。
リバランスで主に論じられる有効性は過度なリスクの是正です。
例えば株式:債券の割合を50:50で投資を始めた場合、株式の方がボラティリティが高いので何年後かに60:40などと割合が崩れる場合があります。
※株安時は逆だね
債券よりリスクが高い株式の方が多くなったということは、当初想定したリスク許容度よりも大きいリスクになっていることになります。
そこで株式を売り債券を買うという操作をすればリスクを戻すことができる、というのがリバランスの効果としての良くある解説です。
しかしもう少し突っ込んだ説明をすることでリバランスはより効果的な手法であることを示せます。
ドル円が円安になると米国資産が株価指数によらず日本円換算で評価額を上げますが、今度は円高になり評価額が下がることが懸念として挙がるということは前述しました。
こういう懸念が上がるレベルでは日本資産より米国資産割合が大きくなっているはずです。
ここでリバランスを発動するとどうなるかというと、
相対的に高くなった、つまり利益の大きい米国資産を売却して相対的に安くなった日本資産(または他の分散投資先)を購入する操作をすることになります。
上記で何をしているかというと、円安で評価額の高くなった資産の一部を利益確定し相対的に安い資産を安い内に多く買います。
円高になることを恐れるだけではなく円安で高くなったものを売って、その資金でその他の安いものを買うというバリュー投資を行うことができるのです。
利益確定分の高い資産の口数よりも相対的に安い資産は多く買うことができますので、次に安かった資産が上昇した時はより多くの評価額拡大を見込めることになります。
米国株式が高いリターンを見込める状態では相対的にリターンが低い資産に分散している分、トータルリターンは米国株式に劣りますが、
分散している分のリスクは抑えることができますし、リバランスによるバリュー投資を行うことによりリターンの差を縮めることができます。
分散投資はリスクを下げるだけの手法だと思われがちですが、その姿は極力リスクを抑えて安定的にかつ十分なリターンを得ようとする仕組みという訳です。(こういうのをアセットアロケーション投資と言うらしい)
円高に対して何も対策をしてないわけではないという気持ちの持ちようも自分の投資に自信を持てたりし、長期投資をより長く続けていく上では重要になってきます。
リバランスは定期的に行うことで機械的に行うことができるから、株価やタイミングを読む必要はなくインデックス投資家の範疇だよ。
もちろん時代が変わり米国株式よりリターンが高くなった資産をコツコツと購入していた場合は成績が逆転する可能性もあります。
リバランス購入先が債券でも効果あり
リバランスが株式間であれば双方上昇したり下落したりを繰り返してリスクを抑えつつトータルでどんどん評価額が大きくなっていくことは想像し易いと思います。
では株式対債券ではどうでしょうか?
もちろん対債券でもリバランスは有効に働きます。
確かに債券は株式よりも長期的にはリターンが劣る可能性が強いです。
しかし債券は株式よりリスクが低い、つまり値動きが小さいという大きな特徴があります。
全体的なリスクを下げてくれることはもちろんのこと、ことリバランスの効果として着目すると、
債券は価値の保存の役割として働いてくれます。
もう少し補足すると、値動きが小さいということは下落幅も小さいということですから、
もし株式をリバランスせずにそのまま保有していた時と比べて、リバランスしていた場合は下落時は小幅の下落幅で済むということです。
これが価値をできるだけ保存してくれるということです。
さらに債券は大きな下落幅となる暴落時には安全資産として資金流入が大きくなる傾向にありますから、
下落幅をなるべく小さいままで保存していた状態からのトータル資産額の回復に一役買ってくれます。
例えば-50%の下落を受けた後に回復するには+100%の上昇が必要ですが、-30%で済んだとすると+43%程度の上昇があれば回復します。
下落幅の差は20%でしたが、回復に必要な上昇率の差は57%もあります。
「投資では損をするな」と言われるのはこういうことなんだね。
プラスして債券は暴落後に資金流入が大きくなりますから、さらに回復を早めてくれる効果があるということです。
そして債券の割合が株式より大きくなった時、リバランスをして価値を保存していた資金を次の大きいリターンのために株式の購入に充てるのです。
債券に分散投資をするということは全体的なリスクを抑える目的だけではなく、
リバランスにより高くなった価値を保存し、回復が遅い株式購入の資金を工面する意味合いもあるのです。
もちろん価値の保存の役割を現金に持たせても良いのですが、現金はインフレにより価値が下がってしまいますし、債券自身にリターンと回復力の効果があります。
最終的には好みですが、リバランスの効果とインフレ対応、リスクの低減効果を併せ持つ債券の方が分散投資としては親和性があると考えます。
分散先が日本債券でもよいのか
じゃあリターンがあまり見込めない日本債券はどうなの?
日本債券はこの記事執筆時点であまりリターンが見込めない資産であり、リスクは数値上では下がるが単にリターンを下げてしまうだけのお荷物資産と思われがちです。
しかしながら価値の保存&リバランスのバリュー投資を十分発揮してくれる資産なのです。
リターンがあまり見込めないということは裏を返せばリスクもかなり低いということで、
まず日本円を欲する人であれば為替リスクはありませんから外国債券よりも価値の保存としては適しているという考え方ができます。
また暴落時はよりリスクが低い債券に資金が流入しますから、資産の回復に一役買ってくれることも期待できます。
リターンが低いと言っても少なからずリターンはあり過去を振り返っても長期では上昇していますから、
上記を総合的に判断してインフレで価値が低くなっていく現金よりも分散先として有力だという考え方もできます。
米国株式よりリスクが小さいかつ十分リターンが見込める米国債券も魅力的ですが、
こと円高懸念を意識するなら為替リスクがない日本債券への投資は十分検討に値します。
暴落からの回復期に円高になってしまい米国債券での回復力がなかなか機能しない、ということも考えられるからね。
日本に住む人は日本円で生活と物やサービスを購入しなければならないということを意識する必要があるのです。(こういうのをドメスティックリスクというらしい)
円高が怖いという気持ちは大切にしよう
円高が怖いということは、もしかするとリスク許容度を超えた投資をしている可能性があります。
為替リスクに耐えられないということです。
そこに気付いたなら為替リスクを抑えるように分散投資を検討すべきだと思います。
オルカンやS&P500一辺倒の投資ではリスクが高すぎたのです。
分散投資を単にリターンを犠牲にしてリスクを下げる愚かな行為だという考えを捨て、
極力リスクを抑えてできるだけ安定的に欲しいリターンを得られる有効な手法だと認識しましょう。
円高になっても定期的にリバランスをしているから円安時の利益を確定して他の資産に振り分け済みだ!
という意識はきっと長期投資を続ける上での懸念を少なくしてくれます。
リスク低減やリバランスという数値上の効果以外にこういう気持ちの面でも分散投資はサポートしてくれます。
長期投資は感情勝負であり、負の感情に抗い続けることが何よりも大事です。
その負の感情というのを「頑張って耐える」という精神論ではなく、分散投資・リバランスの効果を理解して仕組み的に迎え撃ちましょう。
逆にインデックス投資家が出来ることと言えばそれくらいです。むしろそれが大きな仕事です。
とはいえこのまま円安が続いたりもっと円安方向に触れる可能性もありますので最終的な判断はこの記事を読んでくださった各人にお任せしますが、
もし円高が怖いという感情があるのなら分散投資は長期投資を続けるために強い味方になってくれるはずです。