あなたは投資で「損をした」と思うのはどのような状況を思い浮かべますか。
元本割れした時でしょうか?損切りした時でしょうか?暴落を喰らってしまったときでしょうか?
「損をした」と思う状況が事前にどの程度で想定できているかが長期投資を継続できるかどうかの大きな要素の一つです。
いきなりですが心理実験をさせてください。
あなたは4000万円の投資資産があります。このうち含み益が半分の2000万円であり、10年間と長期で積み上げてきた利益です。
しかし直近半月で-50%の大暴落を経験してしまいます。つまり資産が半分の2000万円になってしまったのです。10年間で積み上げてきた資産がたった半月で半分です。
このときあなたの気持ちはどうなっていますか?
(3秒待機)
・・・さてこの心理実験をした真意は単に「資産が半分になってしまった状況」ではなく、
「含み益が0になってしまったが元本割れはしていない状況」に対してどのように思うかです。
恐らくいくつかの前提の違いで感じ方が異なってくるとは思います。
仮に投資資産が極端に低い2万円でこのうち1万円の含み益だったとすると、そこまで心がざわつくことはないかもしれませんね?
ただ4000万円の大金を投資しているなどまだあまり想像しずらい人もいるかもしれませんが、長く積立投資を続けていれば十分考えられる投資額です。
もしこの心理実験で心が不安に駆られたようなら含み益による心理的安心感「含み益バリア」が機能していないということになります。
元本割れをしていないのに「投資で損をした」と思っています。
もしあなたが含み益バリアを当てにしているなら、この心理傾向は長期投資を続けていく弊害となります。
「まだ2000万円も含み益があるから安心だな」と思うことは実は安心感につながらない
もしかするとこれ以上含み益を減らす前に(損をする前に)利確してしまおう(投資を辞めてしまおう)と考えるかもしれません。
つまり積立額の小さい投資初心者よりもそこそこ投資を継続してきた中級者が実は心を揺さぶられやすい立ち位置にいるとも言えるのです。
リスク許容度を上げない人間心理
含み益バリアが機能しないことを説明しやすくする学術的な人間心理があります。
参照点依存症
参照点依存性とは、絶対的な判断に基づいて物事の価値を測るのではなく、参照点との比較によって価値を測る心理的な傾向のことです。
上記の心理実験を例にすると、投資資産が2000万円になったとき、0円から2000万円になった人は2000万円に到達したとうれしく感じますが、4000万円から2000万円になった人は残念に感じます。
含み益バリアが機能しないというのは含み益を含めた4000万円が参照点になってしまい元本割れするしないに関わらずそこから増えたか減ったかで人間の心理が変わってしまう参照点依存症があるからです。
相場が下落時に「まだ含み益があるから大丈夫だ」というのは単に自分を言い聞かせているだけで心理的には心がざわついているはずです。
その心のざわつきの大小がリスク許容度につながるのですが、含み益自体がリスク許容度を上げてくれる要素になるかというと対して大きな割合を占めないと考えます。
リスク許容度が高いと思っている人、例えば毎日±10%の大きな変動を受けても大丈夫だと思える人がいたとしても、
10年間もの年月をかけてやっと積み上げた2000万円の含み益が短期間で0になってしまうという状況、それに至るまでの下落相場に耐えられるかはまた別問題なのです。
損失回避性
損失回避性とは、利益を求めるより損失を避ける心理的な傾向のことをいいます。人は利益を得る喜びよりも損失から来る痛みの方を大きく感じます。
上記心理実験を例にすると、「2000万円を増やした喜び」と「2000万円を失う痛み」は同じものではなく「2000万円を失う痛み」の方が2倍以上大きいといわれています。
参照点依存症に加えてこの損失回避性が「含み益バリア」を機能させない心理を大きくさせています。
豊富にあると思っていた2000万円の含み益はいざ下落相場に突入すると想定以上の心の痛みを伴います。
含み益がいくらあろうが参照点依存症により痛みを感じる分岐点が常に今の投資額になり、そしていざ減った時は損失回避性により2倍の痛みを感じる。
これ以上含み益を減らさないように(元本割れではない)、これ以上の想定以上の痛みを感じないように投資商品を売却してしまう。投資を辞めてしまう。
そんなことになりかねないのです。
唯一の対策はリスクを下げること
もしあなたが「含み益バリア」で下落相場を乗り切ろうとしているなら考え方を改めるべきです。
長期投資によるバイ&ホールドを投資方針としているなら下落相場に対抗する手段としてはあくまでリスクを下げることを考えてください。
リスクを下げることでそもそもの下落幅を抑え、債券を取り入れた分散投資により下落からの回復を早める戦略を取りましょう。
現金保有率を高め保有資産トータルのリスクを抑える戦略も考えられますが、私はあまりお勧めしません。
これも参照点依存症と損失回避性が関連しています。
あくまで投資資産がどれくらい減ったかが心理的に重要だからです。
例えば現金2000万円、投資資産2000万円を持っていたとして、投資資産が-50%の1000万円に減って全体の下落率を4000万円→3000万円の-25%に抑えられたとしても、
2000万円(参照点)が1000万円減ったという心の痛みは大きいはずです。
現金2000万円があってよかったとはならないはずです。
現金2000万円を追加投入すればよいじゃないかという声が聞こえてきそうですが、私のブログを読んでくださっている方ならそんな野暮なことは私には言わないのではないでしょうかね。
インフレリスクも無視出来て現金を何億も保有しておける富裕層を除き、一般長期投資家は投資商品だけでリスクを抑えることを考えていきましょう。